除夜の鐘 ~人間の持つ煩悩を洗い流し、清らかな心で新年を迎えよう~

大晦日の夜、「グォーン」と重く余韻の長い音が響き渡ります。108回つくという除夜の鐘には、どのような意味が込められているのでしょうか。

 

除夜の鐘とは

除夜の鐘とは

除夜の鐘とは、12月31日の大晦日の夜から午前0時をはさんで108回つく鐘のことをいいます。

鐘の音に旧年中の苦しみを託して消し去り、清らかな心で新年を迎えようという仏教由来の年中行事のひとつです。

 

 

大晦日は、旧年を取り除く日ということで、「除日」ともいいます。除日の夜で「除夜」、除夜につく鐘なので「除夜の鐘」というわけです。

 

 

大晦日

12月31日を「大晦日」または「大つごもり」と呼びます。

「晦日」と「つごもり」は、毎月の最終日を指す言葉。つごもりは「月籠り(つきごもり)」のつまった言葉といわれています。一年の最後の日なので、それぞれ「大」を付けることで、ほかの月との違いを表しています。

大晦日の夜には、新しい年の福徳を司る年神様(初日の出)を迎え、共に食事をすると考えられていたことから、「年籠り(としごもり)」といって、眠らずに家で過ごす風習がありました。

うっかり寝てしまうと、「しわが増える」「白髪が増える」といった恐ろしい言い伝えも。どうしてもまぶたが重くなったら、「寝る」ではなく「稲積む(いねつむ)」と言うと魔力から逃れられるそうです。

 

 

かつて1日は日没から始まるとされていたので、除夜の鐘は新年の行事でした。今でも、大晦日の夕食を新年最初の食事と考え、「年取膳」などと呼ぶ地方もあるようです。

 

 

除夜の鐘は、なぜ108回なのか

除夜の鐘は、深夜0時をはさんで108回つくのが慣例ですが、なぜ108回つくのかには諸説あるようです。

108は人間の持つ煩悩の数

ひとつは、108は人間の持つ煩悩の数という説です。これは、108回の由来として広く知られている説です。

除夜の鐘は、欲望や憎しみ、嫉妬や執着…といった煩悩を洗い流す癒しの鐘とされ、除夜の鐘の音でひとつずつ清め、消していきます。107回は年内に、最後の108回目は「1年間煩悩に惑わされないように」という強い意志を込めて新年につきます。

 

 

除夜の鐘は、長い余韻がおさまってからつかれるため、108回をつき終わるのに数時間かかります。かつては107回までを旧年中につき、最後の1回は年が明けてからつくのが習わしでした。

しかし、最近では、数に関係なく深夜の0時をはさんで鐘をつくお寺も増えているようです。また、お寺によっては、「捨て鐘」といって、2回つき加えることもあるようです。

 

 

煩悩

煩悩とは、迷い苦しむ原因となる欲望のことをいいます。「人生は思い通りにならないことばかり。でも、自分の思い通りにしたい。」これが煩悩です。

人は仏性(ぶっしょう)もあるが、同時に煩悩も持ち合わせているために、悟りに至ることは至難の業であるとされています。

仏性
仏さまになる種、仏の本性のこと。

人間誰しも仏性を備えていて、仏道修行することで隠れている仏性を磨き出したり、見つけ出したりする。

 

 

煩悩の三毒

むさぼり
「もっともっと欲しい」という欲望の心。

おろかさ
「どうしたら幸せになれるか」を知らないこと。

いかり
「あの人ばかりずるい」と人を憎む心。

 

 

四諦

お釈迦さまは、悟りの内容を四諦(したい)という4つの真理に分けて説法しました。お釈迦さまは、菩提樹の下でこのことを悟られました。

苦諦(くたい)
この世のあらゆることは苦であるという真理。
悩み、怒り、悲しみ…思い通りにならないことばかり。人生は苦である。

集諦(じったい)
苦の原因は欲望であるという真理。
苦しいのは運勢とかではない。苦は煩悩から生まれる。

滅諦(めったい)
苦の原因である欲望を絶つことが悟りの境地である。
煩悩を滅すれば、苦のない境地に至れる。

道諦(どうたい)
悟りに至るには八正道の実践が必要である。
八正道の教え、つまり、いつも清らかな心で正しく生活することが必要である。

 

 

煩悩に負けない自分を作るには、心の平安が大切なのです。

 

 

煩悩の数え方

仏教思想では、人間の体の動きは「六根(ろっこん):眼(げん)・耳(に)・鼻(び)・舌(ぜつ)・身(しん)・意(い)」に分かれていて、それは人の感覚の「六塵(ろくじん):色(しき)・声(しょう)・香(こう)・味(み)・触(そく)・法(ほう)」と対になっているとされます。

その状態は「好・悪・平」の3つに分かれているため、6×3で18の煩悩が生まれます。

その煩悩には、それぞれ「染・浄」の2つがあり、さらに、それぞれに「過去・現在・未来」の3つがあるため、18×2×3で108の煩悩となるわけです。

なお、108の煩悩には、ほかの数え方もあるようです。

 

 

108は1年を表す数

もうひとつは、108は1年を表す数という説です。

12か月、二十四節気、七十二候という旧暦に関する数字を足す(12+24+72)と108となります。この数は1年を表し、除夜にその数の鐘をつくことで、1年の無事や豊作を願うといいます。

 

 

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108は四苦八苦を表す数

ほかにも、108は人間の苦悩の原因となる四苦八苦(4×9+8×9で108)を表す数という説もあります。

四苦は「生・病・老・死」の苦しみ、それに「愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五蘊盛苦」の4つの苦しみを合わせたものを八苦といいます。

生(しょう)
生まれる苦しみ。生まれる時代や場所は選べない。

老(ろう)
老いる苦しみ。

病(びょう)
病気になる苦しみ。

死(し)
いつかは死んでしまう苦しみ。

 

例えば、若く見せようとしたり、健康や長寿を祈願したり、老病死を分けて考えたり、避けようとしますが、生まれた瞬間に老病死と人は一体となっているため、現実と思いのギャップにまた苦しむこととなるのです。

 

愛別離苦(あいべつりく)
愛する人と別れなくてはならない苦しみ。
親や子、愛する人とは、人生のどこかで別れなくてはならず、誰もが必ず背負わなくてはならない苦しみである。

怨憎会苦(おんぞうえく)
恨み憎んでいる人とも会わなければならない苦しみ。
よく考えると、自分の考えと100%一致する人はほぼいない。気が合うと思って長年仲良くしていた人でも、ボタンのかけ違いでたちまち険悪な仲となる。仲良くしていたからこそ、その関係が崩れたときに苦しみと感じるのかもしれない。

求不得苦(ぐふとくく)
欲しいものが手に入らない苦しみ。
もし手に入っても、さらに新たな欲求が生まれることから、終わることのない苦しみが続く。

五蘊盛苦(ごうんじょうく)
あきらめきれない苦しみ。
五蘊とは、「色・受・想・行・識」をいい、あらゆる現象を表す。


物質。花そのもの。


印象感覚。花を見て美しいと思う心。


知覚。花のイメージを思う心。


意思、心作用。花を摘もうと思う心。


心。花を花と思う心。

 

この五蘊は衆生(しゅじょう:迷いの世界にいるあらゆる生き物)に数々の間違いを起こすので、「五妄想」といわれる。人間は五蘊から離れることができず苦しむのである。

 

 

四苦八苦は、自覚症状のない病を抱えているのと一緒で、常に私たちが抱えているものであり、突然発症したかのように、何かをきっかけとして苦しみが自覚症状としてやってくるとされています。

 

梵鐘の起源

梵鐘とは

梵鐘(ぼんしょう)とは、寺院にある大きな釣鐘のことをいいます。撞木(しゅもく)を使って梵鐘を叩くと、重く余韻の長い音が響き渡ります。

「梵」は、梵語(古代インドのサンスクリット語)で「神聖」「清浄」を意味します。

お寺と鐘が結び付いたのは中国でのこと。日本では奈良時代以降、中国様式にならって「和鐘(わしょう):日本鐘」がつくられるようになりました。和鐘の表面にみられる細かい突起(乳:ち)には、音響効果を高める働きがあります。

鐘は元来、僧侶の朝夕の勤行などのため、時間を告げるためのものです。梵鐘の音には煩悩を取り除く働きがあり、鐘をつくこと自体が供養であり、功徳になるとされます。

中国では毎日の朝夕、108回鐘をついていたと伝えられますが、日本では、普段は18回のことが多いようです。108回つくのは、大晦日の風物詩、除夜の鐘のみです。

第二次世界大戦中、国から国民に金属の供出が命じられたときに、セレモニー的に地域のお寺の鐘も一緒に供出させられたため、梵鐘のないお寺もあります。

 

 

妙心寺の梵鐘(京都)

698年に鋳造された日本最古の梵鐘。

「黄鐘調(おうしきちょう)の鐘」と呼ばれ、ハ調のラの音色が出る。昭和48年までは鐘楼に吊られていたが、現在は法堂で保管されている。

 

東大寺の梵鐘(奈良)

日本三大梵鐘のひとつ。高さ3.86メートル、口径2.71メートル、重さ26.3トンの大鐘。

「奈良太郎」と愛称されている。

 

知恩院の梵鐘(京都)

日本三大梵鐘のひとつ。高さ3.3メートル、口径2.7メートル、重さ約70トンの大鐘。

大晦日のテレビ中継で有名な知恩院の除夜の鐘は、17人の僧侶により行われる。ひとりが大釣鐘の下で仰向けにぶら下がるように親綱を持ち、残りの16人は子綱を持ち、掛け声とともにつく。約1分間隔で鐘をつき、その合間に僧侶3人の念仏礼拝の声がこだまする荘厳なもの。

 

方広寺の梵鐘(京都)

日本三大梵鐘のひとつ。高さ4.12メートル、口径2.227メートル、重さ82.7トンの大鐘。

大坂冬の陣・夏の陣の原因とされる銘文「国家安康・君臣豊楽」が刻まれている。

 

 

除夜の鐘は、去り行く1年を反省する法要を行ってから鐘をつき始めます。お寺によっては、一般の人にも鐘をつかせてくれることもありますが、このとき注意したいのが「出鐘」です。

出鐘とは、参拝の帰りがけにつく鐘のこと。お寺には「出鐘はつくな」という言葉があり、せっかくの祈願が消えてしまうとされています。

これは、普段の参拝で鐘をつくときも同様のようです。鐘をつかせてもらう際は、鐘に合掌してから行います。

 

 

まとめ

  • 除夜の鐘とは、12月31日の大晦日の夜から午前0時をはさんで108回つく鐘のことをいう。鐘の音に旧年中の苦しみを託して消し去り、清らかな心で新年を迎えようという仏教由来の年中行事のひとつ。
  • なぜ108回つくのかには諸説あるようだが、108は人間の持つ煩悩の数という説が広く知られている。
  • 煩悩とは、迷い苦しむ原因となる欲望のこと。「人生は思い通りにならないことばかり。でも、自分の思い通りにしたい。」これが煩悩。
  • 鐘は元来、僧侶の朝夕の勤行などのため、時間を告げるためのもの。梵鐘の音には煩悩を取り除く働きがあり、鐘をつくこと自体が供養であり、功徳になるとされている。

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!